この間、カフェで開かれていたコーヒー飲み比べイベントに参加してきた。
イベントというか、実際には「コーヒーセミナー」という触れ込み。しかし、別にコーヒーが大好きというわけでもなく、かといって、これからコーヒーについての知識をどんどん深めたい!というかんじでもない私にとっては、セミナーというよりはただの飲み比べイベントであったので、イベント気分で申し込んで参加。
コーヒー自体への興味がそこまであるわけでもない私が、なんでわざわざ休日に早起きしてまで参加したのかという話ですが、目的は2つ。
1. コーヒード素人の私にも、果たしてコーヒーの味の差がわかるのかどうかを確かめるため
2. 自分の好みが全体の中でどのあたりにあるのかをざっと知るため
私は自分の味覚に自信がない。「2つのグラスのうち、片方に赤ワイン、もう片方に白ワインが入っています。目をつぶって飲んで、どちらがどちらか当てて下さい」と聞かれたとしたら、さすがにこれはわかる。「片方が辛口の白ワイン、片方が甘口の白ワインです。目をつぶって当てて下さい」、これもわかる。2つ同時に出されて飲み比べできて、かつそこまで説明されれば、だけど。
しかしながら、他人が選んだワインが1つだけ普通に出されて、「どう?」って聞かれたときとか、ワインの好みを聞かれたとき、これが問題。「これは白ワインですね、好きです」 or 「嫌いです」。これしか出ない。「このワインのここが好き」「このワインのここがもうちょっとどうこうだったら好きっぽい」みたいなところに至らない、なので次回にはまるで活かされない。
そういう場面でいつもいつも思うんだけど、単純に自分は舌が弱いのか、それとも、味の違いは感知できるものの単にそれを表現するだけの技術を持ち合わせていないのかが、そもそも自分で把握できていない。まあ厳密に言うとどっちもなんだろうけど、まずは主要因を知りたいと常々思っていた。
これが今回のイベントに参加することにした一番の理由。
あとは、たまに外でホットコーヒーを飲むとき、メニューに豆の種類がずらーっと書いてあって選べる状況にあるのに、コーヒーの知識が基礎中の基礎すらもなく、そもそも自分の好みがどこにあるのかを知らないがために、結局適当に選んでしまっているのってもったいないなーって、いつも思ってた。店員さんが「こちらは深いコクがどうのこうので、こちらは酸味が強めでどうのこうの~」と違いを説明してくれて、その内容を頭ではなんとなく理解できたとしても、自分の好みを知らないと、結局選べないんだよね。せっかく選択肢が複数あるのに、よくもわからず選ぶって、すごくもったいない。
どうせ飲むのであれば、ちゃんと自分が好きな味のコーヒーを飲みたい。これが第二の理由。コーヒーに限らず、こういう風に無意志に適当な選択をする機会をなるべく減らしていきたいということを、ここ数年よく思っている。
というわけで、実際に参加してきました。開店前のカフェで、他のお客さんと一緒に朝から昼まで2時間半強かけて、全部で14種類のコーヒーを飲み比べた。
結果を先に書くと
- 味の違いがあることはわかるが、それを表現するだけの経験と語彙が不足している
- コクという味覚の概念を勉強する必要がある
- 私の好みは、この世代ではごくごく標準的なところにあるらしい
これだけでも行った甲斐大アリだった…!大収穫だよこれは。
今回のように、同時に2~3種類のコーヒーを出されて、さあ飲み比べましょう!という状況であれば、この私にでもちゃんと味の違いがわかる、ということがわかった。今回は飲み比べイベントだから、わざわざ差がある豆のチョイスをしてくれているんだろうけど、それにしても同じコーヒーを同じように飲んでもこんなに違うとはねえ。気のせいとかじゃなく、明確に違う。一度3種類のコーヒーを飲んだ後で、3つのコップをわざと入れ替えて目隠しで飲んでもわかるだろうな、ってくらい、違う。
しかしながら、その自分で感じた味の差を表現できるだけの知識と経験と語彙がない、という予想通りの展開であった。14種も飲むと、どれがどんな味だったかすぐ忘れてしまうので紙に記録をつけながら飲んだんだけど、自分が感じた味覚だったり香りをなんと表現したらいいのかがわからず、すぐにペンが止まる。後半はさすがに慣れてきて、飲んだ第一印象ですぐメモを取れるようになってはきたが、それでも書いた内容といえば「コーヒーではない」(飲んだのはコーヒーです)、「お茶っぽい」「麦茶っぽい」「紅茶」など…私、お茶の飲み比べをしていたんだっけか?
各ファクターへのブレークダウンについては、酸味はわかった。ついでに言うと香りもわかった。しかし、コクと苦味がわからない。あるコーヒーを飲んで、「これはめちゃ独特だけど、なんだろう…?」となっていたら「これがまさにコクです」と言われてびっくりした。私の中にあったコクという概念とはかなりの差があった。苦味・甘みについても、「これは実は苦味もしっかりあるんだけど、それ以上にコクが強く出ているから、全体のバランスを見たときに苦味を感じにくい」みたいなことを言われると、「…うん、うん、わかるようでいて、全然わかりません」ってなる。(コメント詳細は忘れてしまったので内容はかなり適当。最終的には全体のバランスの問題である、という話)
コーヒー好きの人の家やお店で、どんなコーヒーが好きかを聞かれたときに、自分の好みを正しくかつわかりやすく答えられるようになるには、おそらく相当な修行が必要で、今の私には到底無理だと思った。まあ幸いにも私の好みは中庸なところにあるようなので(そもそもブラックでホットコーヒーを飲むことがほぼない上、飲むとしてもほとんどはチェーン店のコーヒーで、それは日本人の大多数の好みに合わせられているんだろうから当たり前といえば当たり前な結果である)、一番人気だったり、一番無難そうな選択をしさえすれば、大きくはずすことはあまりなさそう。
一方、一緒に参加した同行者の好みは昭和の喫煙者が好きなかんじのコーヒーで、それを飲みたいのであれば、未だに全席喫煙可能なような古い喫茶店に行くといい、らしい。たしかに昭和生まれではあるがタバコ吸わないのに不思議だね。他にも彼の好みに合うカフェ(セミナーを受けた店ではない…)をいくつか教えてもらいました。名前は聞いたことがあるけれど行ったことのないお店ばかりだったので、楽しみだな。
と、ここまでが、イベントに参加する前から予想できていた範囲の結果と感想。
あとは、実際に参加してみて、当初の目的以外のところで思ったこと。
この日は朝から昼まで、マスターのコーヒー話を聞きながらまったりコーヒーを飲み比べていたんだけど、何かが大好きで、それに毎日真剣に向き合っている人から、その愛と執着の対象についての話を聞くのってやっぱり楽しい。例えそれが自分自身の専門や、興味範囲以外のことであっても。いやむしろ、その方がより面白いかもしれない。とても贅沢。
途中で「イルガチェフ」という単語が出てきて、セミナー中には「『イルガチェフ』?ゴルバチョフみたいだな、聞いたこともないし、この先一生聞くこともなさそうな単語だ」と思ったのに、セミナー後の二週間くらいで、この単語に4~5回も遭遇した。これにはびっくりした。今まで自分が認知していなかったからスルーしてただけで、色んなカフェのメニューによく書いてある単語だったんだね。
自分が見ている世界というのは、自分の知識や経験によって規定されてしまうんだなあって実感した。この単語一つを知ったからって別にどうなるわけでもないんだけど、ほんのちょっとだけ自分の世界が広がるのはたしかで、それはよいことだと思う。
自分の知らない世界についてちょっとだけ足を突っ込んでみるって楽しいなー、とつくづく思ったコーヒーセミナーでした。こういうイベント事を自ら設定していくと、毎日の生活が楽しくなってよいね。ここ数年は仕事とライヴ一辺倒になりつつあったので、なかなか新鮮な経験ができてよかった。