映画「横道世之介」@渋谷HUMAXシネマ

村上龍にドハマりする前に、私が全著作を家にコンプリートするほどハマっていた作家・吉田修一の有名作「横道世之介」の映画版。

上映期間中、「せっかくだから観に行こう」「いやでもわざわざ観に行くほどではないかな」を何度も繰り返し、結局上映終了直前になって突然「やっぱ行く」となり、会社帰りに観に行ってきました。
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映画『横道世之介』公式サイト



横道世之介」は、修一のいくつかある手持ち軸の一つである「特に何も起こらない系」の作品。感受性と想像力が乏しすぎる私は「いい話」系の話が好きではない(おそらく他の人ほど感動できないし、私のような人がわざわざ時間かけても得るものが少ないと思っちゃう)ので、世之介も話自体は別に好きではなくて、新聞の連載小説という発表形式を使った構成がうまいなと思ったのと、あとは法政に関する描写がひたすら懐かしい、ってだけ。


この映画で、私が一番見たかったのはお濠の桜のカット。

入学式後に、世之介達が武道館から法政に向かって、お濠脇の桜咲く歩道を歩くシーンが絶対あるはずだ!とずっと思っていたんだけど(去年のちょうど今頃クランクインしたのはこのシーンのためだと勝手に思い込んでいる)、実際映画見に行ったらほんとにあった。予告編なんかには一切出てこなかったけど、やっぱ撮ってたんだね!

高校~大学にかけて、私はあの外堀通りをよく法政大生達と歩いており、個人的に思い入れがあるので、大学入学からちょうど10年経った2013年の今にこのシーンを見られてよかった!私、大学入った数日後にも、桜舞う中、当時の彼氏とあの道歩いてたもんなー(その後市ヶ谷のジョナに行った、あそこも非常に思い入れが深い)。まああの後すぐ別れましたけどね…

ちょうどいいタイミングで青春を清算できたような気分。この桜のシーンを確認できただけで、私がこの映画を観に行った目的の半分は達成されました。たぶん、実際にあそこを歩いたことのある人以外は何の感慨もないシーンだと思うけど。あっさりめだったし。


まあ吉田修一自体がそうなんだけど、横道世之介は、私の10年前の思い出センサーにひっかかる描写が特に多すぎてやばいんだよねえ。

原作に出てきてた飯田橋ロッテリアは、残念ながら映画には出てこなかった。下北カプリチョーザも別の店になってた。村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」も出てこなかった。原作ではこの村上春樹の本から時代設定がわかるんだけど、映画では智代の誕生日(1988年)から時代設定がわかるようになってる。

世之介のバイト先である赤プリ(たしか原作で固有名詞は出てこなかったけど、ニューオータニではなく赤プリだと思われる、私がそう思った根拠は忘れた)は、固有名詞出てこなかったけどバイトシーンはちょいちょい出てきた。今現在、赤プリ自体はもう解体作業中なんだよね。法政にはタワーが建つ一方で、赤プリはどんどん低くなって、時代は移り変わるのね。

そういえば冒頭の新宿東口のカット、さくらや(現ビックカメラ)もマイシティ(現ルミネエスト)も懐かしかったです。


以下作品のネタバレ含むメモ

・かなり原作に忠実。なんだこれ、っていう場面や設定は一つもなかった(忘れてただけかもしれないけど)
・話の構成も原作通り。でもあれは新聞小説(たった一日読み飛ばすと、その日に書かれていた内容を踏まえないまま最後まで読み続けるはめになる)だからよかったわけで、映画であの構成そのまんまってのはどうなんだろうね…
・「翼の王国」とかで、「こんなに観客が大爆笑している映画は見たことない」みたいなことを修一自ら書いてたけど、そこまで笑える場面はなかったぞ…


・世之介の人物描写も原作通りなんだけど、ああやって映像化してしまうと、発達障害っぽくてちょっとどきっとした
吉高由里子がハマリ役すぎてびびる。いつ見ても愛人っぽいなあと思ってたけど、屈託ない演技も可愛いなあ!
・「悪人」で祐一の母親やってた余貴美子が今度は世之介の母親やってる
・「悪人」のラストで光代がタクシーの後部座席から祐一を思うシーンがあるんだけど、「横道世之介」のラストでも祥子がタクシーの後部座席で死んだ世之介を思うシーンがある
・映画見ながらもしかして、と思ってたけど、小沢役をやってたのは「悪人」で佳乃の父親役やってた柄本明の息子の柄本佑だね
・映画版阿久津唯可愛すぎでしょ
・加藤はあんなかんじ!綾野剛はまさにイメージ通りだった。
アジカンの主題歌「今を生きて」もぴったりだったー


・プールも海も、水のシーンが印象的に撮られていてよかったね修一!(修一は水オタク)
・自分が上京した頃の東京が再現されてて、母校法政もそのまんまの学校名表記でばっちり映って、故郷長崎もいっぱい映って、よかったね修一!


映画見て、これは修一による修一のためだけの作品だと改めて思った。

世之介=修一自身とはしてないけど、1980年代の過去の自分を今改めて形にするために作っただろ、っていうのがひしひしと伝わってくる…新聞連載当時、修一が20年前を思い起こして書いた作品なんだよね。

でもこれだけちゃんと映像化されたら、さすがにもう満足でしょう、修一よ。「悪人」もヒットしたし、「さよなら渓谷」ももうすぐ映画化されるし、もう映画化しなくていいよね、修一よ。

だから、もう一本の得意分野だった、映像化狙いじゃない地味設定小説書きに戻っておくれ!まじで。

でも「平成猿蟹合戦図」は映像化されるんだろうなー。「太陽は動かない」もあるかも。「長崎乱楽坂」とか「破片」とか「乳歯」とか、あのへんの地味かつ泥臭い系作品の映像ならむしろ見たいんだけど、「破片」の映像化は3.11であれだけの津波被害が出てしまった後の今では、もうないだろうな。「元職員」で後味最悪の映画ってのもいいかも。「ひなた」は、うまく形変えれば20代女性向け映画に変えて映像化できそうだけど、あれは原作のポップさの裏面のおどろおどろしさが好きなのでなるべく映像化して欲しくない!


まあ、映画版世之介は人にすすめたいってほどではないにしても、それなりに楽しめました。平日の会社帰りに映画観に行く、ってのが結構よいことを知ったので、また機会があったらふらっと行きたいな。