DIR EN GREY 「ARCHE」レビュー 前編

去年12月に発売されたDIR EN GREYのニューアルバム「ARCHE」。

発売されることは知っていたけど特に興味がわかず試聴も一切しないままで、音源を買った人からやっと借りたのが年末。さらにそれをしばらく放置し、年明けになってからようやく聴いてみるかという気になって聴いてみたら、最初の一周目で気に入ってしまった。

ディルのアルバム、初聴きで「好き!」って思えたのはWithering to death.以来で、つまりはもはや10年ぶりで、予想してなかった事態なのでびっくりしてしまった。

ARCHE

ARCHE

  • アーティスト:DIR EN GREY
  • 発売日: 2014/12/10
  • メディア: CD


ARCHEを聴いた第一印象は、VULGARとWithering to death.の間、2004年頃にやってたツアーの雰囲気!というもの。VULGARでもない、Witheringでもない、その間の、まさにあの頃!

聴いて最初に思い浮かんだのがZepp Tokyoの二柵前上手から見た視界のイメージで、いつだこれは、と思ったら2004年のライヴの光景だった。あの頃、ディルを観に何度もゼップに行っていた。大学に入ってからは中高のときみたいに馬鹿みたいな数ライヴに行くことはなくなったけど、それでも東京でライヴがあれば極力行ってたから、曲を聴くとライヴの光景や会場の雰囲気なんかも一緒に思い出す。


私は音源ベースでは、好き度合いの上下はあったもののWitheringまでのディルがかなり好きだった一方で、ライヴはその頃からマジ流血し始めたりしていて徐々に好きじゃなくなったので、毎回リアルタイムでライヴに行って、あまり嫌な気持ちにならずに観られていた最後の時期がちょうど2004年前後。ライヴが一番楽しかった時期からはもう5年くらい経っていて、ディルへの熱も一時期と比べればもうかなり冷めてはいたけど、最後のいい思い出として記憶に残ってるのがあの頃。

ライヴは2005年頃から積極的には観たくなくなっていって、その後THE MARROW OF A BONEで音源ベースでも完全に好みから外れてしまった。その後のUROBOROSDUM SPIRO SPEROも、人から借りたりもらったりで音源を持ってはいるものの、アーティスティックすぎてついていけなくてあまり聴いていないし、それらのアルバムを聴いてもライヴに行きたいと思ったことはなかった。

それが今回ARCHE聴いたら、最初の一周で気に入って、その後繰り返して聴けば聴くほどに「これは、このアルバムツアーが続いているうちに、絶対に生で観ておかなくては」と思うようになった。

去年の夏、10年弱ぶりのディルライヴということで15年ぶりの懐かしのGAUZEツアーを観て、大満足して、さてこれでまた今後数年間はディルを観ることもないだろう、と本気で思っていたのですが、次のディルライヴの予定がこんなに早く入るとは。五か月前には全く予想してなかった。期せずして、運営側の策略にまんまとハマった形である。



でアルバムの内容ですが、

前の2作よりも小難しくなくて、10年間離れていた過去ファンの私でも非常にとっつきやすい。一曲一曲が短くコンパクトにまとめられてて、好きじゃない曲もさっさと終わるので、アルバムをちゃんと全部通して聴きやすいし、リピートしやすい。構えなくてもさらっと聴けちゃう。

そして何より嬉しかったのが、歌メロが完全に復活している!私は結局のところ、陳腐であろうとベタベタな歌謡曲やわかりやすいメロディーが好きで、前作・前々作のアーティスティックさというか凝り様というか職人芸というか、には全くついていけなかったので、今回シンプルなメロディーが完全大復活しているのには感動した。

去年、GAUZEツアーで10年弱ぶりにディルを観てはっきりわかったのは、今のこのバンドは京の声と表現(必ずしも歌ではない)を最大の武器として、他の全てをそれに合わせる形で最適化する戦略を取っているんだなーってことで、その効果を最大にするためにはUROBOROSとかDUM SPIRO SPEROのような方向の方が合っていて、なるべくしてああなったのであろう、ということはなんとなく理解できた。しかし、それでも、私はわかりやすく美しいメロディーをシンプルに歌う京と彼を擁するバンドの方がやっぱり好きで。だから前2作を経て、今のディルがこの形になっているのがすごく嬉しい。

しかも、シンプルではあるんだけど、私が好きだった頃のようなスカスカカスカス感とか(いや90年代当時は間違いなくそれが好きだったんだけど)、何かを模倣している感が薄くなってるのが一番すごいと思った。私が観ていた頃のディルは、黒夢やらLUNA SEAなどの先駆者達のフレーズやPierrotなど近い世代の他バンドのモチーフをもろパクリしたり、その後も急に洋楽っぽくなったり急にメタルっぽくなったりと、いつも何か他のものを模倣しているように感じていて、「〜っぽさ」が常に抜けなかった。だからこそ、どんどん違う形に変わっていくという意味で面白くもあった。

でも今回久々にARCHEを聴いたら、「〜っぽい」っていうかんじが激減してて、DIR EN GREYDIR EN GREY、っていう謎の風格さえ出てきているように感じた。上に書いた、ボーカルの個性に他が最適化するという戦略によってオリジナリティが出たのかなあと思う。この点に関してはUROBOROS以降もう既にそうなってたのかもしれないけど、生で観てないしまともに聴いてないから今更わからないんだよね。THE MARROW OF A BONEの時点では、まだ「〜っぽくしてみました感」をそれまでと同様に感じていたのはたしか。まあ音楽に詳しい人からしてみたら今のディルだって何かのパクリだと言うんだろうけど、私の印象としてはこう。


京の表現する喜怒哀楽は、私が観ていた頃と比べると、怒の勢いはそのままで、哀はより抽象的に、楽はエログロナンセンスを脱して芸術的になってるなーと感じた。私が一番ディル馬鹿だった頃ってほんと単なるエログロナンセンスだったからな、それと今とどっちが正しいとかいう話ではないが、鬼葬で私がいい加減辟易したような類のエログロナンセンスが絶滅しているのは単純に嬉しい。で、相変わらず喜はあんまりない。灰色の銀貨が突然真っ白とか真っピンクになったら困惑するから、それはそれでよい。

その一方で、このアルバムからは全体的にすごく救いを感じる。発売時のキャッチコピーは痛みにフォーカスしてるけど、私はそこは特に感じなかった。それよりも、随分と救いがあるなあというかんじ。それも、外から与えられる類の救いではなく、もがきにもがいてようやく自ら到達したような救い。昔、VULGARを聴いて感じた前向きさとはまた違うんだよなー、諦念的でもあり、遂に覚悟を決めたようなかんじもあり。非常に個人的な感覚によるものなので、このへん全然説明がつかないけど。

京の歌詞も、この人は相変わらず同じところでこじれてんなーと思うところがある一方で、ああ、大人になったのねーと思う部分もある。まあそりゃそうだ、20代前半だった彼も、もう40代目前なんだもんなー。このへんの感覚のバランスを保ち続けていることが、幅広い年齢層に受け入れられる下地となっていたりもするのかな。



…と、色々懐古しながら書いてたら無駄に長くなったので記事分けます。レビューといいながら既にほとんど懐古しかしていないが、後編でも個人的な思い入れと思い込みしかないアルバム全曲レビューを書く!

後編はこちら



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