今年読んだ本 後編

では引き続きまして、星4つ以上の後編。
星3つまでの前編はこちら



<★★★★☆>
好き!色々考えさせられる程度には読み込んだシリーズ

心はあなたのもとに
夏前に隣の部屋にあったので、何も考えずに手にとって読み始めたら
「なにこれめっっちゃ面白いじゃん!!」となって、
その後半年以上、村上龍ばっかり読み始めるきっかけになった本。
村上龍は今までまともに読んだことなかったんだけど、これで完全ドハマり。
まあ内容は、他の本の中でも村上龍が繰り返し繰り返ししつこくしつこく書いている
「関与について」「女の分類」「幼少期のトラウマ」「ついでに俺様自慢」なんだけど
それが、病弱な元風俗嬢との不倫という、
まじどーでもよく無駄にメルヘンな本筋と絡み合って
うまーくまとまってるので、大変読みやすいです。
まあぶっちゃけ、本筋いらないけど。
でも、小説形式にしないと皆に読んでもらえないもんね。
読者に伝えたいことを、うまーく書くための設定として、やっぱ上手。さすがだわー。
こういう、飲み屋でたまたま隣になったおっさんが
よっぱらって自分語り&最近考えてたことを一方的に話しかけてきました、
みたいな文章好きー!屁理屈バンザイ。


  • 村上龍「2days 4girls 2日間で4人の女とセックスする方法」

2days 4girls 2日間で4人の女とセックスする方法
これは「心はあなたのもとに」より後で読んだんだけど
内容、「心はあなたのもとに」と全く同じです。
主題を言いたいがための設定とかストーリーは別物だけど、主題は全く同じ。
なので同じ記述がたーくさん出てくる。
なのでどっちか一冊読めばいい気がします。私は好きだったので両方楽しめたが。
そしてタイトルは村上龍らしい引っ掛けなので、あんま気にせず読むが吉。
随所でしつこく挟まれるリフレインが効いてます。自分まで迷い込んだ気がしてくる。


トパーズ (角川文庫)
読んだらめっちゃ鬱になる。
村上龍の風俗・SM描写自体に興味はないのだが、
ここまでしつこく畳み掛けられると、さすがに圧倒される。
ところどころでぐっさぐさ刺され、みじめな気分になる本。
最近思い出すこともなかった、10代の頃の色んな人間関係を思い出すわー。
女性におすすめ。精神的に余裕があるとき、もしくは底まで落ちたいときにどうぞ。


苦役列車
この人の本初めて読んだけど、これはヒット!
文体にクセがあるので読みづらいかと思いきやそんなことはなく、
突然の体言止めがとっても心地よい。
内容も卑屈に次ぐ卑屈、口撃に次ぐ口撃の連続で、
なんだか、誰かのブログか2chまとめスレかなんかをネットで読んでるような気になる。
ほんと、今に合ってると思う。芥川賞にぴったりだわー。
こういう、貫太(西村賢太の投影)をついつい嗤ってしまう読者と、
そんな読者をさらに嗤う西村賢太(と新潮社)、という二重構造ものは結構好きよ。
他の作品はまだ読んでないので、これからが楽しみ!


日曜日たち
私の大好きな修一です。これはよかったー
修一の小説には「都会編」と「長崎編」があるけど、これは都会編の方。
この人、長編も好きだけど、実は短編集の方が刺さるものが多いかも。
これも、「初恋温泉」も、あっさりしてるのにぐっさぐさ刺さってくる。しかも地味に。
「人生の途中、どこかで泣きを見てそれを引きずってる女、
 特に男関連で失敗したような女に対して、実に甘い」
という修一のクセが十二分に生かされている作品ですが、いいんだそれでも…!
修一らしい、淡々としてるけど救いのある小説。五作つなげる必要は感じなかったが。




<★★★★★>
ラスト。
今年読んだ本の中から、「私が好きな本」として人様におすすめするならこのシリーズ

歌うクジラ 上 歌うクジラ 下
これは、私の今年のベストオブベスト。
この本に出会えてよかった!
ほんとに良作。隅から隅まで、めっちゃ面白い。
SFの殻をかぶった、近未来社会の予想図小説ですな。
想像力が著しく乏しいため、SFとか未来想像ものが苦手な私でもぐんぐん読めた。
まあ内容は、「これからの世界をどうサバイブしていくかのパターン提示」なんですが
それよりも、階級社会や性の行き着く先に関する、細々した龍の問題提起が楽しい。
この描写は、今の社会の何のことを指し示しているのか、って
いちいち考えながら読むと、すーーーっごく楽しい。エンターテイメント性高いー。
読んでると、事あるごとに
「俺様、こんなことまで思いついちゃったんだけど、まじすごいっしょすごいっしょ」という
村上龍のドヤ顔(そしてソース顔)が浮かんでくるが、それもまたよし。


五分後の世界 (幻冬舎文庫)
有名作を今更初読み。珍しく文庫で読んだ。
色んな人に薦められて読んでみたらば、
たしかにこれはすごい…!まじすごい…!なんじゃこれは。
2010年代の今読んだってこれだけリアルなのに、
これ発売当時に読んでたらどーなってたのか。びびる。村上ドラゴンすごー。
村上龍の小説はその時代の社会の空気感や問題点を描いたものが多いので、
発売されたらすぐ読まないと勿体ないな、と、これと「歌うクジラ」を読んで悟った。
村上龍はどの小説内でもサバイバルしていていいね。
何度も言ってるけど、是非とも高城剛と二人で「21世紀の生き延び方」について
対談して、口論で締めくくって欲しいよ。その内容をGQあたりに掲載して欲しい。


ひなた
修一が得意なモラトリアム家族ものの一つではあるけど、
これは結構こわーい作品である。
結婚後もバリバリ働き続けていながら「既婚女性が働き続けるには理由がいる」と悩み
その後さらに「家庭に入っても幸せになったと断言できない」と悩む桂子と、
族上がりの若手社員で、いびられたりしつつも徐々に仕事で成功しつつあるレイ、
二人を対照的に書いているだけの本かと思いきや、そうではない。
単に、レイの後日談が書かれてないから一見対照的に見えるだけなのであって
最終的にはレイも桂子と同じ所に行き着くのである。
おそらくこの本では、最後のページの後に続く、そんな現実を暗に指し示すためだけに
それまでの全ページを費やしているのである。
ひなたも、時間が経ったら日陰になる!おーこわいこわい!
このこわさこそ修一の得意技。
短編集「初恋温泉」でも、
離婚を切り出す夫婦や不倫カップルの話、暴力ネタを四作続けた後で
最後に、高校生カップルの甘酸っぱさを描いた作品が一作品だけ入ってるんだけど、
これも、最後に「あー若いなーかわいいなーほのぼのするー」じゃなくて
「こういうカップルも、年月経ったらどうせ別れるし
 その後、他の人と出会ってつきあったり結婚したりしても
 結局は前四作みたいな関係に陥りかねない」
っていう現実がにじみ出てるとこがこわいんです。絶対それ狙って書いてるし。
話戻ってこの「ひなた」という作品、一番恐ろしいのが、
JJに「キャラメル・ポップコーン」という可愛らしいタイトルで連載されていたということ!
こういう内容の作品を、よりによってJJに寄稿する、
そんなドス黒い修一が大好きです。
…ってああ、修一に対して思い入れが強すぎて書きすぎた。
これ系の修一作品カムバック!待ってる!




以上、25冊。
他にもなんか読んだ気がするけど、記録にないものは思い出せないや…
半年で村上龍を11冊読んだみたいねー。今年読んだ本のうち、半数がこの人の本か。
彼は吉田修一と違ってベテランなので著作も多く、
隣の部屋にある村上龍作品も、まだまだ読み切れてないので
このまま来年もしばらく楽しめそうです。
取り敢えず、「半島を出よ」は楽しみすぎてまだ温存している。
村上ドラゴンのおすすめ本があったら是非教えて下さい。家にあるかどうか調べます。