回転寿司という名のアミューズメントパーク訪問記 後編

知らぬ間に著しい変貌を遂げていた回転寿司屋に、10年振りに行った話。

前編はこちら


さて、予約して行ったにも関わらず、カオスな待合スペースで待ちに待って、ようやく呼び出された私達。

そこは私の期待と想像を遥かに超えた、ハイテクアミューズメントパークであった。

席への案内が漫画喫茶方式

番号を呼ばれて受付に行き、店員さんが席に案内してくれるのかと思いきや「お席はXX番、こちらでございます。それでは行ってらっしゃいませ。」と、地図を渡されて放流されるという漫画喫茶方式であった。だから通路脇に席番号がわかりやすく掲示してあったのね!たしかに、いちいち客を席に案内していたのでは、受付のお姉さんは呼び出しアナウンスを続けられないよね。

席は6人くらいが座れそうなボックス席がほとんど。座席にはちょっと高めのついたてがあるので、隣の席のことはあまり気にならない。もっとも、ひっきりなしに続く受付番号の呼び出しアナウンスと、お寿司の到着を知らせるアラーム音で、隣の席の話なんか気にしてられないほどの喧騒なんだけど。

受付で「行ってらっしゃいませ」と言われるのが、ディズニーランドのアトラクションに乗って出発するときみたいで、何このアミューズメントパーク感!と、ここで私はこの店の本質に初めて気がついた。

生ビールすらもセルフサービス

席にたどりつき座ったはいいものの、店員さんは特に来ないし、机の上にメニューがあるわけでもない。「ん?これもう頼んでいいの?」「いつスタートなの?」としばしきょどるものの、どうやら勝手に始めていいのではということで注文することに。

まずビール!と思って早速タッチパネルで注文しようとしたら(ちなみに、ここでタッチパネル操作権争奪戦が起こった)、「生ビールはセルフサービス」とのこと。たしかに、通路にジョッキの入った冷蔵庫が!空のジョッキ数で最後に会計なのかなーと思って行ってみると、自分でビールサーバーに500円を入れてサーブするという方式であった。私ら不慣れすぎ。

一旦席に戻って、冷蔵庫からジョッキを取り出しサーバーの所定の位置にセットして、お金を入れると…自動でジョッキが斜めになり、ちょうどいい泡比率で生ビールがサーブされる。できる機械。感動。お寿司を食べる前に、もう感動。そういえばサントリーのビール工場でも、こうやってグラスを傾けてビールを注げと教えられたわ…

全てが静寂を切り裂いてすっ飛んでくる

さてビールもゲットしたところで、いよいよお寿司。お寿司が流れるレーンは上下2レーンあって、下のレーンは厨房から各席の横をじゃばらルートで流れ、カウンター席の前を流れてまた厨房に帰っていくという、いわゆる昔ながらの回転寿司レーン。

一方、上のレーンは、タッチパネルで注文したものが席めがけてすっ飛んでくるレーンで、文字通り「すっ飛んでくる」。もはや回転もしていないし、「流れる」とかいうレベルの速度ではない。すっ飛んでくる。このスピード感あふれる動き、かなりダイナミックかつシュールで大変面白いので、是非体験して頂きたい。

タッチパネルで注文すると、普通のお寿司なら大体5分くらいで席に届く。「間もなく 到着致します」という無機質な機械音声のあと、ピーピーピーというめちゃくちゃうるさいアラーム音と共にお寿司がすっ飛んできて、自分の席の前でぴたっと止まる。お寿司を受け取ったら、ボタンを押すとアラーム音が止まり、お寿司が乗っていたトレー状のものがさっきとは逆方向にすっ飛んで帰っていく。

客が会話していようが静かにしていようがまるでお構いなし、空気なんて読まずに一方的に静寂を切り裂くアラーム音。ショッピングモールのフードコートで料理を頼むと渡されて、料理が出来上がるとアラームがうるさく鳴り響く通信機器、あれを思い出した。

客の席めがけて液体を高速ですっ飛ばすという神技

ちなみに、おそらくほとんどのサイドメニューがお寿司同様に上のレーンをすっ飛んで運ばれてくる。それが例え液体であっても一切容赦なし。味噌汁も、抹茶白玉かき氷も、アイスカフェラテも、お寿司と同じスピードですっ飛んでくるという超強気設定。

かき氷は若干崩れかけていたがぎりぎり無事、アイスカフェラテは、テイクアウト用のプラスチック容器に入ったものがお椀に入れられてくるが全くこぼれたりしておらず完璧な停車。さすがに味噌汁は蓋付きのお椀に入れられた上、途中で蓋が取れないようにベルトが巻いてあったが、それでもこんなに高速運転するなんてすごい!一歩間違ったら、レーンの途中や急停止時に、熱い味噌汁や冷たいかき氷をぶちまけてしまうというリスクがあるというのに、この技術力に裏打ちされた攻めの姿勢ですよ。素晴らしい。

ファストフード利用、居酒屋利用、カフェ利用、いずれも可

昔、回転寿司屋でお寿司と一緒に回転しているものといえばプッチンプリンコーヒーゼリーかジュースかくらいな記憶だったが、今はこのタッチパネルで注文→上レーンで配達制を取っているためサイドメニューが大変充実している。シメのラーメンやごはんもの、ちょっとつまめる揚げ物、デザートも色々。

そのため、回転寿司屋でありながら、寿司屋以外の使い方ができる。実際、隣のテーブルの家族連れはフライドポテトやフライドチキンなどの揚げ物をしょっちゅう頼んで、寿司屋というよりはファストフード的な使い方をしていたし、向かいのテーブルの年配のグループは最初っから一人一つラーメンか丼物を頼んで、あとは寿司をちょっとつまむだけ、ひたすら瓶ビールを空けまくるという居酒屋利用をしていた。

先日の日経で、最近は女子高生が放課後に長居できる場所としてカフェやファミレス代わりに使うという報道がされていたけど、実際の真偽はともかくとしてたしかに可能だわ。一応寿司屋なんだけど、色んな客層が色んな使い方ができる。これはすごい。

皿の回収システムが全方位的に頭よすぎ

食べ終わった皿を下げるのも全自動。各席に皿の自動回収機があり、そこに食べ終えたお皿を客自ら放り込んでいく。おそらく、お寿司が流れている下側レーンのさらに下に皿回収用レーンがあって、厨房に向かって流れていく仕組みなのだろう。そこに放り込むと、お皿の数が自動でカウントされて注文用タッチパネルに表示される。お皿はどれも一皿100円で計算すればいいので(200円のメニューは皿が2枚ついている。一部サイドメニューは最後に店員さんがお椀の数をカウント)、最後の会計も早い。

さらに、お皿を5皿自動回収機に入れるたびに、注文用のタッチパネルでくじが始まる…!数回に一回当たりが出て、当たると席の上にあるボックスからガシャポンが出てくる!射幸心を煽られる仕組み。ただでさえ、パチスロ風のアナウンスが大音量で常に流れている店内なのに、そこで「おお、当たったー!」とかやっていると、ここは一体どこなのか、私達は何をしにここに来たのか、よくわからなくなってくる。

これ、おそらく1グループの食事中に1回か2回、それも食事の中盤から後半にかけて当たるような設定になってるんだと思うけど、ほんっと頭いいと思った。まず子供は絶対やりたがるし、大人でも面白くて、皿を積極的に片付けるようになる。食事の後半、例えば総皿数が28皿とかだったら、「せっかくだからあと2皿食べてくじ引こうかな」って思ってついで食べしちゃうし、同時に会計もほとんど済む。客を自然に楽しませながら、店側の負担を確実に減らす、なんて素晴らしいシステムなんだ。天才すぎる!

有無を言わさぬ激安さ、しかし普通に美味しい

ちなみにお寿司はほとんど一皿100円だった。直前にネットでメニューを調べるまで、一貫100円だと思ってたのでびっくり!メニューはどれも美味しかったです。高二のとき、埼玉で一皿100円の某回転寿司チェーン店に行ったら、味にほとんどこだわりがない私でもわかるくらい全てが劇的にまずくて、かっぱ巻きすらも激マズだったという嫌な思い出があったのだが、今日は全て美味しかった。そりゃお寿司屋のお寿司とは違うけれど、スーパーのお寿司よりは美味しいのでは?

そしてお会計、お腹いっぱいゆっくり食べて、3人で驚異の3000円台。これだけ食べて、それ以上にこれだけ楽しませてもらって、一人1000円ちょっとって!驚きすぎて、最後の最後でまた感動の波がやってきた。素晴らしすぎる。これは繁盛するわけだよ。

ちょっと困った点

いやもうこれだけ楽しんだので文句はないんだけど、敢えて何か困った点を挙げるのであれば、箸置きがないことと、ペーパーナプキンがないことかな。面白いからお皿をどんどん自動回収機につっこみたくなるんだけど、箸置きがないし箸袋もないので、食べ終えたお皿の上に箸を置きっぱなしにしなくてはならない。

あと、テーブルに粉末緑茶をこぼしたり、かき氷が崩れたりしても、席にペーパーナプキンがないのであまり対応できない。ペーパーナプキンは通路に出ればどこかにあったのかもなー。

まあどちらも店側の都合(受付後、会計まで、一度も店員が席に来ないという徹底した作業量削減ぶり!)を考えたら理にかなっているので、対応されることはないだろうね。


結論:そこは回転寿司という名のアミューズメントパークであった

結論として、回転寿司屋は寿司屋ではない。日本のお寿司とカリフォルニアロールくらい、いやそれよりずっとずっと、寿司屋と回転寿司屋は似て非なるものである。

回転寿司屋は、安くて回転する寿司を提供する寿司屋なんてものではなく、全く別のアミューズメントパークであり、最早飲食店というよりはアミューズメント業であるように感じた。

回転寿司=パチスロ+フードコート+漫画喫茶+ファミレス+工場+寿司屋。いろんな要素を、実にうまく組み合わせてある。客の不満を極力抑えるというどころか、これだけいろんな側面で楽しませてくれつつも、確実に人件費を削減するという方針。システム化もここまで徹底すると一種のエンタメパッケージになるんだなあと、大いに感動してしまいました。

心温まる接客にこだわった〜とかいうのを売りにしている店より、こういう店の方が私は断っ然好き!やっぱり、ロボットが働くというハウステンボスにも泊まりに行かねばと、決意を新たにしたのでありました。